知っておきたい、伝統構法と在来工法の違い
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伝統構法と在来工法
古民家と聞くと、「昔の家」「築年数の古い木の家」といったイメージを持たれる方が多いかもしれません。
しかし実は、古民家には大きく分けて2つの構造タイプがあることをご存知でしょうか。
ひとつは、石場建てに代表される「伝統構法の古民家」。
もうひとつは、コンクリート基礎を用いた「在来工法の古い住宅」です。
見た目はよく似ていても、構造の考え方や耐震の仕組みはまったく異なります。
| 項目 | 伝統構法(古民家) | 在来工法(現在の木造住宅) |
|---|---|---|
| 登場した時代 | 江戸時代以前〜昭和初期 | 戦後(1950年代以降) |
| 主な建築目的 | 自然と共に長く住み継ぐ | 効率よく、安全に大量供給 |
| 基礎 | 石場建て(礎石の上に柱) | コンクリート基礎(布基礎・ベタ基礎) |
| 構造の考え方 | 柱・梁・貫などの木組みで支える | 柱+耐力壁で箱のように固める |
| 接合部 | ほぞ・込み栓などの伝統的仕口 | 金物(プレート・ボルト) |
| 地震への考え方 | 揺れを受け流す・逃がす | 揺れに耐える・固める |
| 耐震補強の方法 | 構造を理解した上で全体バランスを調整 | 耐力壁の追加、基礎補強 |
| 間取りの特徴 | 壁が少ない田の字型、可変性が高い | 壁で区切られた個室中心 |
| 空間の思想 | ハレとケ(公と私の使い分け) | 家族構成・機能重視 |
| 風・湿気への対応 | 通風・土間・深い軒で調整 | 断熱・気密性能で管理 |
| リノベの難易度 | 高い(専門知識・経験が必須) | 比較的対応しやすい |
| 文化的価値 | 非常に高い(地域・歴史を映す) | 現代的・実用重視 |
伝統構法とは
古民家と一口に言っても、そのすべてが同じ構造ではありません。
伝統構法の古民家かどうかを見極める最大のポイントは「石場建て」かどうかです。
石場建てとは、柱がコンクリート基礎に固定されるのではなく、自然石の上に直接建てられている構法。現在主流の在来工法とは、構造の考え方そのものが大きく異なります。

伝統構法の構造の特徴
伝統構法の古民家は、
・柱と梁で建物を支える
・壁に頼りすぎない
・木組みの力で全体を保つ
といった特徴があります。
金物で固めるのではなく、木そのものの粘りや組み方によって力を分散する構造です。
地震に対する考え方の違い
昭和25年以前に建てられた「伝統構法」の古民家は、玉石や延石の上に柱を立てる「石場建て」の工法で、木と木を組み上げて地震の力をしなやかに受け流す「柔構造」が特徴です。
現代の在来工法が、コンクリート基礎と耐力壁で建物を「固める」構造であるのに対し、伝統構法には構造への深い理解と高い技術が求められます。

間取りの特徴
伝統構法の古民家は、壁が少なく、「田の字型」の間取りが多く見られます。
柱と梁で空間をつくるため、可変性が高く、風や光が家全体を巡るつくりになっています。
「ハレとケ」という暮らしの考え方
古民家には、日本人特有の暮らしの思想である
「ハレ(特別な日)」と「ケ(日常)」が明確に表れています。
・南側の座敷や客間=ハレの空間
・北側の台所や居間、納戸=ケの空間
来客をもてなし、家族の日常を大切にする。
この間取りには、日本人のおもてなしの心が自然と組み込まれているのです。
伝統構法の古民家の価値
こうした構造や思想をもつ古民家は、
・現代では再現が難しい
・同じものが二つとない
・時間とともに価値を増す
という点で、非常に貴重な建築文化と言えます。
伝統構法の古民家は、壊して新しくするのではなく、
構造の特性を理解した上で「活かす」リノベーションが重要です。
・無理に壁を増やさない
・構造を締め付けすぎない
・必要な耐震・断熱は、古民家に合った方法で行う
こうした判断には、伝統構法を理解した専門的な知識と経験が欠かせません。
在来工法とは
在来工法(木造軸組工法)は、戦後から高度経済成長期にかけて普及した、現在の日本住宅の主流となっている工法です。
1950年に建築基準法が制定され、構造計算や耐震基準が明確化されたことをきっかけに、全国で標準化されていきました。
在来工法の構造の特徴
在来工法は、コンクリート基礎の上に土台を据え、柱・梁・筋交い・耐力壁で建物を固める構造です。
壁や床、天井が一体となって建物を支えるため、構造は比較的シンプルで、施工の均一化・工期の短縮が可能です。
地震への考え方
在来工法の耐震は、「揺れに耐える」考え方が基本です。
耐力壁や筋交いをバランスよく配置し、建物全体を強く固めることで地震の力に抵抗します。
耐震等級という明確な指標があり、数値で性能を判断しやすいのも特徴です。
間取りの特徴
構造上、壁が耐震要素となるため、壁の位置に制約が出やすい傾向があります。
一方で、設計ルールが確立されているため、現代の生活スタイルに合わせた
・LDK中心の間取り
・個室をしっかり確保したプラン
・設備を効率よくまとめた家
といった住まいをつくりやすい工法でもあります。
古民家の価値を活かすために大切なこと
古民家リノベーションを考えるうえで欠かせないのが、
その家が「伝統構法」なのか「在来工法」なのかを正しく見極めることです。
伝統構法の古民家は、石場建てに代表されるように、
木組みと柔軟性によって揺れを受け流す、日本独自の構造思想で建てられています。
そこには「ハレとケ」による空間の使い分けや、
人をもてなすための間取りなど、暮らしの文化そのものが息づいています。
一方で、こうした構造や考え方を十分に理解しないまま、
在来工法の手法で補強や改修を行ってしまうと、
本来の良さを損なったり、構造的な不具合につながることもあります。
価値ある古民家を、ただ新しくするのではなく、
その家が本来持っている力や魅力を活かしながら、次の世代へつないでいく。
そのためには、伝統構法に対する専門的な知識と経験を持ったパートナー選びが重要です。
古民家の個性を見極め、
「残すべきもの」と「整えるべきもの」を丁寧に判断すること。
それが、古民家リノベーションを後悔しないための第一歩です。
なんば建築工房では、伝統構法の古民家を未来へ受け継ぐために、古民家再生総合調査を行っています。
古民家鑑定・床下インスペクション・伝統耐震診断を通して、建物の状態を丁寧に読み解き、その古民家に合った再生の方向性をご提案します。
「この古民家、活かせるだろうか?」
そう感じたときは、ぜひ一度ご相談ください。古民家の価値を見極め、次の暮らしへとつなぐお手伝いをいたします。

正田 順也 (まさだ じゅんや)
大阪生まれの奈良育ち。大学進学をきっかけに岡山へ移住し、住宅業界歴は30年超。
職人の伝統技術を活かすため、古民家再生・空き家利活用・地域づくりに力を入れている。
(一社)全国古民家再生協会岡山第一支部 代表理事
(一社)全国空き家アドバイザー協議会 岡山県倉敷支部 事務局長
町おこし団体 下津井シービレッジプロジェクト 事務局長
古民家鑑定士インストラクター ほか